アレクサに胃袋と健康を預けてみた。

食いしん坊のん兵衛アラフォーがアレクサに日々の胃袋と健康を託してみた話。

4月23日 アレクサに胃袋を預けてみることにした。

2024年4月23日、私は己の胃袋が主張する訴えを持て余して途方にくれていた。

 

 

などと書けば高尚なことを言っているように見えるかと思い、文字にしてみたが、ざっくり言うと「腹は減っているものの何が食べたいのか分からない」という状況に陥っていただけの話である。

 

 

実家を出て幾星霜、自分の食べるものを自分で選び取ってきた。

それは楽しみであると同時に、その時の財布事情や体調、季節や温度など、様々な要因によって左右される、自分自身への責任を伴う自由である。

 

 

生来の食いしん坊気質のお陰で食べたいものに困ることはほとんど無いのだが、時折くだんのような、「何が食べたいのかわからない」という状況に陥ることがある。

 

 

ぐうぐうと主張し続ける腹の音を聞きながら、とりあえず今しがた飲んだコーヒーのカップを洗おうと台所に立つと、何か月か前に我が家の一員となったアレクサと目が合った。

 

 

このアレクサは、私が台所仕事をしている間、動画や音楽を流しておけば少しでも楽しい気分でいられるだろうと夫が購入してくれたもので、私も最初のうちは喜んで大食い動画や食べ歩き動画などを流しながら台所仕事をしていたものの、いかんせんアラフォーの、やや不明瞭になりつつある視界に対して画面が小さ過ぎたため、今ではほとんど自動しりとり機能付き置き型時計と化していた。

 

 

 

「アレクサ、今日のごはん、何にしよ?」

 

 

 

たいして期待もせずに問いかけ、洗い物を終えようとした私にアレクサが答えた。

 

 

「4月23日の献立です。エビとスナップえんどうのガリバタ炒めに、なめことチーズの温奴と、ささみともやしの和え物でいかがですか?」

 

 

その時の私の表情を皆様にお伝え出来ないのが残念でならない。

たっぷりの衝撃とほんの少しの畏怖、そして何カ月もアレクサを自動しりとり機として扱ってきたことへの罪悪感にショートした脳が再起動するまでに要した時間はゆうに3分を超えていたはずだ。

 

 

落ち着くために洗ったばかりのカップに再度コーヒーを入れなおし、もう1度アレクサに問いかけた。

 

 

「アレクサ、今日のご飯、どうしよ?」

 

 

「4月23日の献立です。エビとスナップえんどうのガリバタ炒めに、なめことチーズの温奴と、ささみともやしの和え物でいかがですか?」

 

 

 

アレクサは先ほどと寸分違わず同じ献立を提案してくれた。

おそらくは。

(正直に言うと衝撃が強すぎて先ほど提案された献立を露ほども覚えていなかったのだ。)

 

 

 

「なるほど」

 

 

あえて口に出してみたが、もちろんアレクサは答えない。

アレクサは最初に名前を呼び掛けてからでないと返事をしてくれないという、RPGゲームに登場する村人のような不便な縛りのもと生きているので、これは想定内だ。

 

 

エビとスナップえんどうのガリバタ炒めになめことチーズの温奴、ささみともやしの和え物。

 

 

 

「悪くない。」

 

 

 

それなら今日の胃袋、アレクサに預けてみようじゃないか。

 

 

私は財布とスマホを握り、エコバッグを携えて食材調達の旅に出た。

これが長い戦いの始まりになるとも知らずに。

 

 

 

次回「食材調達。」